だいこんぎり。


- vol.8 -

-某有名ホテルアルバイト体験記(その1)-




僕は確かに酔っ払っていた。

僕は某有名ホテルの真っ赤な制服をまとって、
朝の7時にそのホテルの37階の、客室の廊下とかべ一枚
へだてた誰もいない従業員用スペースで倒れるように眠っていた。

胸に携帯していた仕事用のポケットベルと
37階の内線電話がけたたましくなり響いていた。
それらが、20分もオーダーに行って帰ってこない僕を
呼んでいることは明らかだった。
だが僕の耳はその2つを、かすかに聞こえる隣の家の
目覚ましくらいとしてしか認識しなかった。
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「おい!起きろ!大丈夫か?起きろ!」

耳元で誰かが叫ぶ声がした。
だんだん目の前がぼんやりと、やがてはっきりとしてきた。

その人は社員のベルボーイのAさんだった。
僕ははっと我に返った。
いそいで立ち上がり、
「はっはい。だっっ大丈夫ですっ」
と言った。
「大丈夫ですじゃないだろうが。何してんだお前!」
「いっいや大丈夫です。はい。」
動揺が隠せなかった。

明らかに僕のしていたことはかなりヤバいことだった。
僕はその前日から泊りでこのホテルでバイトしていたわけ
であるが、いつもは3時間頂く仮眠をその日は
全くとっていなかったのだ。
バイトの先輩に飲もうと言われて、仮眠を取るべき
時間に、ずーっと西洋の高いお酒をガバガバ飲んでいたのだ。
そして朝早くからせっせと働いていたのであるが
どうやらからだに限界が来たらしい。
いつのまにか倒れていたのだ。


続く


1998-11-08-MON



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