大学職員列伝。


- vol.1 -

ほんとうにあった悲しいはなし




突然ですが、ひとはどんな時に自殺を考えるんでしょう。

失恋、経営する会社の倒産、いじめ、世界は明日破滅するんだあ(笑)
なんてのもあるかも。いずれにしろ自分の能力やら運勢の強さやらでは 乗り越えられない山に突き当たったときに、
ふっと呼ばれてしまうんでしょうね。
合掌。
わたしは幸い、自殺もせずに30歳を越えたわけですが、
そんなわたしでも自殺を考えたことが皆無なわけではないっ(強調)。

もちろん、いじめられたら倍返しをしてやるという良い性格をしてるし、
失恋ごときでいちいち自殺してたら何個いのちがあっても足りません。

では、どんなときに自殺を考えたんでしょう。
それは、小学校4年生の夏休み明け。
そう、ずぼらな小学生にとっては、まさに悪夢の時期です。
楽しい夏休みは終わり、
残されたのは手付かずの宿題の山また山。
次の授業を計算しつつ、急ぎの宿題をでっちあげ、
どうしても終わらないものは、
持ってくるの忘れましたと言い逃れをする。
ほとんど潰れかけた中小企業の社長同様、自転車操業の毎日です。

そんな中でも、まあどうにかこうにか宿題を片付け、
残るはあとひとつ。
それは作文でした。
テーマは夏休みのこと。
「400字詰め原稿用紙に5枚書きなさい」という、
先生からしたら出血大サービスな簡単なもの。
しかし作文が大嫌いだったわたしには災厄以外の何ものでもなかったのです。
友だちは海に行ったこととか、田舎で虫を取ったこととか、
まあ何かしら書いてきます。
もちろんわたしも夏休み中、ずっと植物人間だったりしたわけではないので、
なにかしら書くことはあった筈なのです。
しかしいざ書いてみると

「夏休みはプールに行ったり、図書館にいったり、おばあち ゃんのところにいったりしました。おもしろかった。」

これで終わってしまう。
ああ、これでは原稿用紙5枚どころか50字で終わりじゃないか。
さすがに、これではまずいということは幼心にも分かります。
でも作文って苦手なんだよお。
そんなとき思ったのです、「死にてえ」と。
もともと空想癖というか妄想癖は充分あったので、そうなると止まりません。
死んだら、机の上に花がおかれるんだ。
そして先生は「◯◯くん、先生が悪かったわあ」
とか言って泣いちゃう。
そして学校では二度と 夏休みの宿題に作文が出なくなったりして、
他の作文が苦手な奴らはぼくに感謝する。
ああ、なんて殉教者なんだろ。
その日、わたしは悲しい気持ちと、ちょっぴり甘美な気持ちが入り交じった、
なんとも気持ちの良い涙を流したのでした。
で、作文はどうなったのか。
そう、わたしはいかに作文を書くのが嫌いで、
辛いことなのかを書きました。
原稿用紙に1枚半くらいですけど。夏休みには全然関係なかったけど、
先生には怒られませんでした。ああ良かった。

以来、大学入試は小論文のあるところを避け、
アンケート用紙の感想欄にはぜったいに何も書かない、
という小学生のころとほとんど何も変わらないまま、
32歳になっちまったわたし。

それが今回、ふくだくんに誘われ、
何故か文章を書くはめに。ああ神様。


1998-11-06-MON



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